作家別作品集
帚木蓬生


略歴
1947(昭和22)年、福岡県生れ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。

2年で退識して九州大学医学部に学び、現在は精神科医。

’79年に『白い夏の墓標』を発表、サスペンスの舞台を海外に据えた物語は直木賞候補となった。

’93(平成5)年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、

’95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、’97年『逃亡』で柴田錬三郎賞を受賞した
 

お勧め度 内容紹介
ヒトラーの防具 上下 ☆☆☆☆
東西の壁が崩壊したベルリンで、「贈ヒトラー閣下」と書かれた日本の剣道の防具が発見された。それは日本からヒトラーに送られたものだった。1938年、ベルリン駐在武官補佐官となった日独混血の青年、香田光彦がドイツで見たものは驚くべき勢いで成長してゆくナチスドイツであった。父の国であるドイツの現実に、次第に幻滅を覚えてゆく主人公。日独伊三国軍事同盟にも、彼は失望した。迫害に怯えるユダヤ人女性・ヒルデとの生活に幸福を見つけたが、居合術をヒトラーの前で披露するという任務をきっかけに、ヒトラーのボディーガードになる。彼の兄の勤める病院にも、弱者を抹殺しようとするナチスの魔の手が襲い掛かる。当時の日本とドイツの関係がよくわかり、面白い。

逃亡 上下 ☆☆☆☆
1945年8月15日、日本敗戦。国内外の日本人全ての運命が大きく変わろうとしていた―。香港で諜報活動に従事していた憲兵隊の守田軍曹は、戦後次第に反日感情を増す香港に身の危険を感じ、離隊を決意する。本名も身分も隠し、憲兵狩りに怯えつつ、命からがらの帰国。しかし彼を待っていたのは「戦犯」の烙印だった…。国家による戦犯追及。妻子とともに過ごす心安らかな日々も長くは続かなかった。守田はふたたび逃亡生活を余儀なくされる。いったい自分は何のために戦ってきたのか。自分は国に裏切られたのか。一方、男の脳裏からは、香港憲兵隊時代に英国民間人を拷問、死に至らしめた忌まわしい記憶が片時も離れることはなかったが…。(出版社の内容紹介より)柴田錬三郎賞受賞。久々に読み応えあり。「国家と個人」を問う日本人必読の2000枚です。主人公は、著者の父。

三たびの海峡 ☆☆☆☆
「一度目」は戦時下の強制連行だった。朝鮮から九州の炭鉱に送られた私は、口では言えぬ暴力と辱めを受け続けた。「二度目」は愛する日本女性との祖国への旅。地獄を後にした二人はささやかな幸福を噛みしめたのだが…。戦後半世紀を経た今、私は「三度目の海峡」を越えねばならなかった。"海峡"を渡り、強く成長する男の姿と、日韓史の深部を誠実に重ねて描く山本賞作家の本格長編。(出版社の内容紹介より)
吉川英治文学新人賞受賞作品。
韓国における強制連行の実態と、植民地下に置かれた韓国・朝鮮人の想像を絶する扱われ方には戦慄すら覚える。、また自ら韓国から日本に来た韓国・朝鮮の人たちの生活もわかり興味深い。日本人は、この本を是非読むべきですね。

受命 ☆☆☆☆
日系ブラジル人医師の津村は、北京の国際医学会で知り合った北朝鮮の医師に技術を伝えて欲しいと請われ、招聘医師として平壌産院に赴く。北園舞子は、職場の会長で在日朝鮮人の平山の付き添いとして、万景峰号に乗船する。一方、舞子の友人で韓国人の李寛順は、とある密命を帯びて「北」への密入国を敢行する。三者三様の北朝鮮入国。だが、彼らの運命が交錯する時、世界史を覆す大事件が勃発する。これはずいぶん前に読んだが、北朝鮮の状況はさらに悪くなっている。今読んでもあまり古さは感じないと思う。面白かった。
閉鎖病棟 ☆☆☆
精神科病棟に住まう重い過去をもちながらも明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと向かわせたものは何か?
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口は胸にしみる。山本周五郎賞受賞作。

賞の柩 ☆☆☆
ライバルの死と引換えに得たノーベル賞。先端医学の独走がもたらした闇を暴く。第3回日本推理サスペンス大賞佳作。
ノーベル賞と言えば科学者にとって最高の栄誉であり、それだけにその裏での賞取り競争は熾烈なものなのだろう。 故人には与えられない、同じ学説に対して4人以上の同時受賞は無いなどの規則があり、ノーベル賞級の発見に関して4人以上が横並びの時にはその内一人が亡くなるまで、賞は授与されないなど、賞を巡るドロドロした裏面が明らかにされていく。

薔薇窓
上下
☆☆☆
パリの警視庁付の精神科医が診断した日本娘。花の都を襲った連続誘拐事件と貴婦人ストーカーをつなぐ狂気の糸は、日本ブームに沸く街を恐怖で絡め取った…。(出版社の内容紹介より)

万国博覧会のパリが舞台。100年前に日本からパリに住み付いた骨董商と精神科医との交流が魅力。

白い夏の墓標 ☆☆☆☆
細胞融合を誘導する性質のあるセンダイ(仙台)ウィルスを独力で発見した天才研究者、黒田。彼はその才能故に米国に招かれ、謎の事故死を遂げた。 死の真相を探るうちかれが
細菌兵器の開発に携わっていたことがわかる。人類に災禍をもたらす研究に従事せざるを得なかった科学者の苦悩直木賞候補にもなったこの作品の読後はすがすがしい
臓器農場 ☆☆
新任看護婦の規子が偶然、耳にした言葉は「無脳症児」―。病院の「特別病棟」で密かに進行していた、恐るべき計画とは何か?真相を追う規子の周囲に、忍び寄る魔の手…。医療技術の最先端「臓器移植」をテーマに、医学の狂気と人間の心に潜む“闇”を描いた、サスペンス長編。
(bookデータベースより)まあまあでした。
アフリカの蹄 ☆☆☆
絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!?
南アフリカであろうアフリカのある国をイメージしてつづられているが実話ではない。
国銅(上下) ☆☆☆
他の作品で山本周五郎賞を得た筆者のあたたかい視線が、過酷な労働の中で生き、成長する主人公、そしてその周りを彩る人々に注がれている。大仏の造営の命を受けて。生きて帰れるかは神仏のみが知る。そんな時代だ。
中学高校生に読ませたい作品である。
風花病棟 ☆☆☆☆
乳癌と闘いながら、懸命に仕事を続ける、泣き虫先生(「雨に濡れて」)。診療所を守っていた父を亡くし、寂れゆく故郷を久々に訪れた勤務医(「百日紅」)。三十年間地域で頼りにされてきたクリニックを、今まさに閉じようとしている、老ドクター(「終診」)。医師は患者から病気について学ぶのではなく、生き方を学ぶのだ――。生命の尊厳と日夜対峙する、十人の良医たちのストーリー。
千日紅の恋人 ☆☆☆☆

宗像時子は父が遺した古アパート、扇荘の管理人をしている。扇荘には様々な事情を抱えた人たちが住んでおり、彼女はときに厳しく、ときには優しく、彼らと接していた。ある日、新たな入居者が現れた。その名は有馬生馬。ちょっと古風な好青年だった。二度の辛い別離を経験し、恋をあきらめていた時子は、有馬のまっすぐな性格にひかれてゆく。帚木蓬生としては非常に珍しいほのぼの系。
暖かで、どこか懐かしい風景が心を緩ませる。